ロボットのエンドエフェクタでワークを保持する方式には、真空グリッパー・機械式グリッパー(メカニカルハンド)・マグネットグリッパーの3通りがあります。「真空だと穴あき部品や凹凸のあるワークが保持できない」「機械式は爪の設計や段取り替えが複雑になる」「搬送タクトを落とさず安全に着脱したい」。こうした課題に直面したときに候補になるのがマグネットグリッパーです。
本記事では、マグネットグリッパーの仕組みと、真空式・機械式との違い、導入が有利になる条件を、生産技術・設備設計のご担当者向けに整理して解説します。
マグネットグリッパーとは|定義と真空グリッパー・メカニカルグリッパーとの違い
マグネットグリッパーとは、磁力で鉄などの磁性金属ワークを吸着し、ロボットのエンドエフェクタとして搬送する装置です。ワークに接触する面全体で保持するため、爪やパッドで一点・一面を挟み込む従来のハンドとは保持のしかたが異なります。
真空グリッパーは、吸盤とエア配管・真空発生器でワーク表面を吸着します。気密性が保持力を左右するため、穴あき部品やメッシュ状のワーク、表面が粗いワークでは十分な吸着力が出にくくなります。機械式グリッパー(メカニカルハンド)は、爪でワークを挟んで保持する方式で、材質を問わず使える一方、ワーク形状ごとに爪の設計や把持位置の調整が必要になります。マグネットグリッパーはこの2方式と異なり、磁性金属であれば表面の穴や凹凸があっても保持できる点が特徴です。
マグネットグリッパーが必要になる場面
マグネットグリッパーは、真空や機械式では対応しづらい搬送シーンで選ばれています。代表的な3つの場面を見ていきます。
自動車・建機部品の搬送
プレス部品や鋳造部品には、穴あき・リブ・曲面など複雑な形状が多く含まれます。真空吸着では気密が確保しにくい形状でも、磁性金属であればマグネットグリッパーで保持できます。自動車部品や建機部品、建設資材の搬送で採用が広がっている分野です。
鋼材・鋼板のハンドリング
積み重ねたブランク材を1枚ずつ取り出すデスタック工程では、2枚重なって取れてしまう「ダブルブランク」が不良の原因になります。磁束の浸透深度を機種ごとに設計できるため、1枚取りに適したグリッパーを選定できます。
デパレタイズ・パレタイズ工程
パレットに積まれたワークを1個ずつ取り出す工程では、ワークの向きや積み重ね方によって吸着面の状態が一定しません。面接触で保持するマグネットグリッパーは、多少の隙間や傾きがあっても対応しやすく、段取り替えの少なさが評価されています。
仕組み・構造|磁力でワークを着脱するメカニズム
マグネットグリッパーを実務で使うには、吸着面に置いたときは磁力を発生させ(ON)、ワークから離すときは磁力を切る(OFF)という切り替えが必要です。この切り替え方式には、大きく2つのアプローチがあります。
ひとつは電磁石方式です。コイルに電流を流している間だけ磁力を発生させるため、ON/OFFの切り替えは単純ですが、吸着している間も電力を供給し続ける必要があり、停電やエア供給の停止で保持力を失うリスクがあります。
もうひとつは、永久磁石の配置や向きを機械的に切り替える方式です。磁石そのものは常に磁力を持ったままですが、内部の磁石配置を切り替えることでワークに伝わる磁束を変化させ、見かけ上のON/OFFを作り出します。電力を使うのは切り替える瞬間だけで、吸着中は電力を必要としません。そのため、搬送中に外部電源やエア供給が途絶えても保持状態が変わらないという特性があります。
いずれの方式でも、磁束をワークへ導く役割を担うのがポールシュー(磁極片)です。ポールシューの形状を変えることで、フラット面だけでなくラウンド面や特殊形状のワークにも磁束を届けやすくなります。
グリッパー方式の違い|真空式・機械式・磁気式の比較
3方式は保持力の源が異なるため、対応できるワークの条件もそれぞれ異なります。「どれが優れているか」ではなく、「扱うワークにどの方式が合うか」で選びます。
| 項目 | 真空式 | 機械式(メカニカルハンド) | 磁気式(マグネットグリッパー) |
|---|---|---|---|
| 保持力の源 | 真空圧(吸盤の気密) | 爪による機械的な挟み込み | 磁力(磁性金属のみ) |
| 対応ワーク材質 | 材質を問わない | 材質を問わない | 鉄・鋼などの磁性金属のみ |
| 穴あき・凹凸ワーク | 気密が保てず不利 | 形状次第で把持可能 | 面接触のため対応しやすい |
| 段取り替え | 吸盤配置の再設計が必要 | 爪の形状・位置の再設計が必要 | ポールシュー交換で対応 |
| 電源途絶時の挙動 | 吸着力を失う | 機構によって異なる | 永久磁石方式なら励磁状態を保持 |
| 主な用途 | フラットな板材・シート材 | 不定形・非磁性ワーク | 磁性金属の穴あき・複雑形状 |
選び方の基本|ワーク条件別の判断基準
マグネットグリッパーの選定では、カタログの最大保持力だけでなく、ワークの材質・板厚・形状・搬送環境を組み合わせて判断します。
ワーク材質・板厚
マグネットグリッパーが保持できるのは磁性金属のみで、アルミやステンレス(オーステナイト系)、樹脂などの非磁性材料には使えません。板厚が薄いワークでは、機種ごとに決まっている「磁場飽和板厚」(それ以上厚くしても保持力が頭打ちになる板厚)が判断基準になります。カタログには、板厚0.6mmクラスの薄板専用機種から、板厚38.1mmクラスの厚板・重量物向け機種まで幅広くラインアップされています。
形状・穴あき/不定形ワーク
フラット面だけでなく、ラウンド面や特殊形状のワークにも対応できるのは、ポールシューの形状をワークに合わせてカスタマイズできるためです。複数のワークを同時にハンドリングする用途にも柔軟に対応できます。
搬送速度・環境(粉塵・清浄度)
真空式は気密を保つため吸盤の摩耗や粉塵付着の影響を受けやすく、定期的な清掃・交換が必要になります。磁気式は気密を必要としないため、粉塵や油分がある環境でも保持力への影響が小さい傾向があります。また、磁気センサーを内蔵し励磁・消磁の状態やワークの在席確認をPLCへフィードバックできる機種もあり、高速搬送でのダブルブランク検知に活用されています。
| 確認項目 | チェックポイント |
|---|---|
| ワーク材質 | 磁性金属か(アルミ・ステンレス・樹脂は対象外) |
| 板厚・重量 | 磁場飽和板厚、最大保持力に対する安全マージン |
| 形状 | 穴あき・ラウンド面・特殊形状の有無、ポールシューのカスタマイズ要否 |
| 搬送タクト | 励磁・消磁の切替速度、デスタック時のダブルブランク検知要否 |
| 設置環境 | 粉塵・油分の有無、清浄度が求められる工程かどうか |
| 安全要件 | 電源・エア途絶時に保持状態を維持する必要があるか |
選択肢の一つとしての製品例|マグスイッチ社のアクティブシャンティング方式
永久磁石の配置を機械的に切り替える方式を製品化した例として、愛知産業が取り扱うマグスイッチ社(米国)のマグネットグリッパーを紹介します。自社の搬送条件に照らして、他方式と比較する材料としてご覧ください。
同社の切り替え機構は「アクティブシャンティング方式」と呼ばれ、国際特許を取得しています。内部に組み込んだ切り替え式の永久磁石を回転させ、上下2つの磁石が異なる極同士が向き合う配列(異極配列)になると磁場が打ち消し合って消磁(OFF)、同じ極同士が向き合う配列(同極配列)になると磁束が一点に集中して励磁(ON)します。

磁石の回転角は物理的に一定の範囲でしか動かないよう構造上制限されており、内蔵型のフェールセーフ機能として説明されています。
ワーク条件を整理したうえで、機種選定はメーカーへの確認が確実です。マグスイッチ製品ラインアップでは、空圧式・電気式・薄板専用など複数シリーズを取り扱っています。
よくある質問
真空グリッパーとの違いは何ですか?
真空グリッパーは吸盤の気密性で保持力を出すため、穴あきワークや粗面のワークでは吸着力が落ちます。マグネットグリッパーは磁性金属であれば面接触で保持できるため、こうしたワークに対応しやすくなります。一方で対象は磁性金属に限られる点が違いです。
穴あき・薄板のワークでも使えますか?
穴あきワークは面接触の特性上、対応しやすい形状です。薄板については、機種ごとに決まる磁場飽和板厚が基準になり、板厚0.6mmクラスの薄板専用機種も用意されています。実際の板厚と重ね置きの条件を踏まえた機種選定が必要です。
電源やエアが途絶えるとワークは落下しませんか?
永久磁石の配置を切り替える方式であれば、励磁・消磁の切り替え時だけ電力を使う構造のため、搬送中に外部電源の影響を受けにくくなります。マグスイッチ社のアクティブシャンティング方式では、磁石の回転角が物理的に一定の範囲でしか動かないよう構造上制限されており、内蔵型のフェールセーフ機能として説明されています。
導入前に確認すべきことは何ですか?
ワークの材質・板厚・形状・搬送タクトを整理したうえで、ポールシューの設計を含めた機種選定が必要です。ポールシューの設計には専門知識が必要とされており、選定はメーカーへの相談が推奨されています。
まとめ
マグネットグリッパーは、真空式が苦手とする穴あき・凹凸ワークや、機械式の爪設計が煩雑になる場面で候補になる方式です。保持力の源が磁力である以上、対象は磁性金属に限られますが、面接触による安定した保持と、方式によっては電源途絶時にも状態を維持しやすい構造が特徴です。
選定にあたっては、本記事のチェックリスト(ワーク材質・板厚・形状・搬送タクト・設置環境・安全要件)を起点に、扱うワークの条件を整理してください。カタログ値だけでなく、ポールシューの設計まで含めて検討することで、導入後のトラブルを減らせます。
鋼材やスクラップを磁力で吊り上げる「リフマグ(リフティングマグネット)」の仕組みはこちらの記事で解説しています。
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